スレム

ハル「スレムさんて、物を紙みたいにして持ち歩いてるんですよね。
　いったい、どんなものを持ち歩いているんですか？」
スレム「そうね……。ほとんど製本して、この本に収納してるんだけど。
　たとえば、傘なんかはよく持ち歩いてるわね。
　ヘルレルムっていつも夜だから、雲行きを見ることもできないし。」
ハル「なるほど。急に雨が降ってきたら大変ですしね。」
スレム「あと、お化粧道具とか、研究の資料も入れてるわね。
　本の中に本を収納するのもおかしな話だけど、けっこう便利なのよ。」
ハル「わぁ。難しそうな本ばかり入ってますね……。
　ここにあるのは実験の道具ですか？　なんだか、見たことのない形をしてますけど。」
スレム「ええ。これはメスシリンダーね。実験で使う溶液を入れるものよ。
　で、これがフラスコ。ビーカー。アルコールランプ……。」
ハル「すごい収納力……。これならボクたちみたいに、たくさん荷物を持って旅しなくてもよさそうですね。
　いいなぁ。ボクもそういう便利な力を持ちたかったですよ。」
スレム「たしかに、旅行にはいいかもね。
　ほとんどゲーゼルシャフトで過ごしてるから、あまり機会はないけど……。
　でも、ハルが思うほど便利な能力ってわけでもないのよ。デメリットも多くてね。」
ハル「えっ、そうなんですか？ボクにはそこまで思いつきませんけど……。
　もしかして、強力すぎて身体に負担がかかるとか。スレムさん、すごく痩せてますし。」
スレム「ふふ。痩せてるのは生まれつきよ。というより、転移した肉体が不完全なだけ。
　……実は、それよりもっと深刻なデメリットがあるのよ。」
ハル「そ、それ以上に危険なんですか……！？」
スレム「ええ。そうなのよ。
　この能力……収納のことを考えなくていいから、つい通販で物を買い過ぎちゃうのよね……。」
ハル「そ、それは……危険ですね……。」
スレム「ほら、見てみなさい。通販で買った洋服や健康サプリがこんなに大量に……。
　気付いたときには、物があふれかえってるの！
　なんて恐ろしい能力……。おかげで、財布も紙のように薄っぺらになるのよ……。
　許せないわ。こんな能力さえなければ、今ごろ貯金もあったはずなのに……！」
ハル「…………。」