ムゥ

ムゥ「…………。」
ハル「あれ？ムゥさん……ですよね？」
ムゥ「なんじゃお主は。」
ハル「ボクはピリオドのハルって言います。有名なモデルさんがこんな夜中にどうしたのかなって思って……。」
ムゥ「ピリオドとは言えこんな夜中に子供が一人で出歩いているのもどうしたものかと思わんか？」
ハル「え、えっと……あはは……たしかにそうかも……。」
ムゥ「カカッ！なに、責めているわけではない。お主がいつ出歩こうと、儂には関係ないからのぉ。
　ほれ、ここに座れ。」
ハル「い、いいんですか？」
ムゥ「うむ。遠慮は無用じゃ。」
ハル「……ありがとうございます。」
ムゥ「何やら思い詰めた顔をしておるな？」
ハル「あはは、ピリオドの仕事でちょっと……。
　エーリカさん……先輩に怒られちゃって、少し落ち込んでたんです。」
ムゥ「カカッ！失敗で気を落としておったのか。若いのぉ。」
ハル「あはは……そうなんでしょうか。」
ムゥ「お主を見ていると昔を思い出すの。儂がモデルとしてデビューした頃のことじゃ。」
ハル「へぇ。ムゥさんにも、駆け出しの時期があったんですね。」
ムゥ「ああ。その日も、撮影の後こうやって夜の散歩に出ていてな。
　隣には、儂をモデルの世界に引き入れてくれた魔女がいたのじゃよ。
　若気の至りというやつかのう。毎日が新鮮で、わくわくして……まるでお祭りみたいじゃった。」
ハル「あはは。ムゥさん、今でも毎日が楽しいんじゃないですか？
　この前も『月刊マジョマジョ』の表紙になってましたし……」
ムゥ「カカッ！そいつはどうかのう？
　過去の幻影を追い求めるのも、それはそれで悲しいものじゃ。
　しかし、儂の熱狂は過ぎ去ってしまったのじゃよ。
　初期衝動というのは、誰しもが持っておるもの。
　だからこそ その失敗が、成功の糧となり、情熱を燃やし続ける糧になるのじゃ。」
ハル「そうですね……。ボクもまだ、駆け出しピリオドです。
　怒られたくらいで落ち込まず、もっともっと頑張らないといけませんよね。」
ムゥ「カカッ！その意気じゃ。
　……そういえば、あの夜に儂とあやつが見たのは、血のように赤く、綺麗な月じゃったか。」
ハル「…………？何か言いましたか、ムゥさん？」
ムゥ「なんでもない。ただ、少し懐かしくなっただけじゃ。
　あやつは今どこに居るのかのぉ……。」